手元の見積書に、「調査を行う者の氏名」と「資格の区分」は書かれていますか?

アスベスト(石綿)の事前調査は、2023年10月以降、建築物では"建築物石綿含有建材調査者"などの有資格者にしか行わせることができません。しかも資格には区分があり、物件によっては調査できない資格者がいます。無資格・区分違いの調査は、調査のやり直しや工期停止という形で発注者に跳ね返ります。

この記事は、資格を取りたい人向けの解説ではありません。依頼する側(発注者・元請)が、見積前に業者の資格を確認するためのガイドです。

事前調査に必要な資格 — 3つの区分と「調査できる範囲」

資格者の区分は厚生労働省の告示(令和2年告示第276号)で定められています。発注者にとって重要なのは講習の中身ではなく、その資格者が自分の物件を調査できるかです。

資格区分 調査できる範囲
一般建築物石綿含有建材調査者 すべての建築物
特定建築物石綿含有建材調査者 すべての建築物(一般との違いは講習・修了考査の構成 — 実地研修と口述試験の有無 — であり、調査できる範囲は同じ)
一戸建て等石綿含有建材調査者 一戸建て住宅と、共同住宅の住戸の内部だけ(マンションの廊下・外壁などの共用部、ビル・店舗・工場は不可)

誤解されがちですが、「特定」が上位資格だから調査範囲が広い、ということはありません。一般も特定も全建築物を調査できます。注意すべきは「一戸建て等」の限定です。戸建てリフォームなら問題ありませんが、マンション共用部や店舗・ビルの工事に「一戸建て等」の資格者しかいない業者は選べません

このほか、令和5年9月30日までに日本アスベスト調査診断協会に登録された者(同等以上の能力を有する者)による調査も有効とされています。

物件別・依頼できる資格者の早見表

あなたの物件 依頼できる資格者
一戸建て住宅、マンションの住戸内部 一般/特定/一戸建て等 のいずれでも可
マンション共用部、ビル、店舗、工場、倉庫 一般 または 特定
工作物(ボイラー・配管・煙突など) 下記のとおり2026年1月から区分あり

2026年1月〜: 工作物にも資格者義務

2026年(令和8年)1月1日以降に着工する工事から、工作物の事前調査にも資格者義務が適用されます。対象はやや複雑で、反応槽・加熱炉・ボイラー・配管設備・発電/変電/配電/送電設備など(特定工作物告示1〜5号・7〜11号)は「工作物石綿事前調査者」が必要、煙突・トンネル天井板・プラットホーム上家など(同6号・12〜17号)は建築物調査者(一般・特定)でも可、それ以外の工作物は塗料等の除去作業に限って資格者義務、という整理です。プラント・設備系の工事を発注する方は、業者に「工作物石綿事前調査者が在籍するか」まで確認してください。

資格者が不要になる例外

2006年9月1日以降の着工を設計図書等の書面で確認して調査を終了する場合は、資格者による調査は不要です(石綿則3条4項のかっこ書)。この特例の正確な条件は2006年9月1日基準の解説をご覧ください。

「調査の資格」と「分析・除去の要件」は別物

「調査から除去まで一括対応」の会社でも、この3つの要件はそれぞれ確認するのが確実です。

発注者がやるべき資格確認 — 4ステップ

法律上、資格を確認する義務を負うのは施工業者側であって発注者ではありません。しかし、確認を怠った場合の損失(やり直し・工期遅延)を負うのは発注者です。次の4ステップで確認してください。

  1. 見積・契約前に「調査者の氏名と資格区分」を確認する。 法定の確認機会があります: 元請業者は調査結果を発注者に書面で説明する義務があり、その説明事項には「調査を行った者の氏名」と「講習実施機関の名称」が含まれます(大気汚染防止法施行規則16条の7第3号)。契約前でも同じ情報の提示を求められます
  2. 修了証明書の写しの提示を求める。 資格の証明書類は講習機関が交付する修了証明書で、事業者はその写しを調査記録として3年間保存する義務があります(石綿則3条7項)。保存義務のある書類の提示を求めるだけであり、提示に応じない業者は候補から外すのが安全です
  3. 物件と資格区分の適合を上の早見表で照合する。 マンション共用部・非住宅の工事で「一戸建て等」の資格者しか在籍しない業者には依頼できません
  4. 調査後は報告書(事前調査結果報告書)の提出を求める。 厚労省委託事業の発注者向けリーフレットも、資格の確認と報告書の提出要求を推奨しています

無資格調査を許すと何が起きるか

無資格者に事前調査を行わせることは石綿則3条4項違反であり、施工業者側は労働安全衛生法22条違反として6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金の対象になり得ます。発注者が直接罰せられるわけではありませんが、実害は発注者に及びます — 調査のやり直し、報告の差し戻し、最悪の場合は工事の停止です。罰則の全体像は罰則の解説記事をご覧ください。

資格は最低ライン — その上での選び方

資格の確認はスタートラインで、そこから先は、①料金(検体単価と一式の範囲)②納期・特急対応 ③報告書の品質(電子報告用データの対応)④調査から除去までの一括対応 — で比較することになります。当サイトの調査会社比較表は、保有資格の列を含む統一条件で各社を比較できます(2026年7月時点・順次更新中)。

よくある質問

Q. 自社(発注者側)の社員に調査させてもいい? その社員が調査者資格を持ち、かつ調査の実施主体としての要件を満たす場合を除き、実務上は資格者のいる調査会社への依頼が確実です。なお業として行わない個人のDIYの軽微な改修に限った緩和はあります(不要ケースの記事参照)。

Q. 「一戸建て等」の資格者に、うちのマンション(共用部含む)の調査を頼める? 住戸の内部だけなら可能ですが、共用部が工事範囲に入るなら不可です。一般または特定の調査者に依頼してください。

Q. 一般と特定、どちらに頼むべき? 調査できる範囲は同じです。特定は講習に実地研修・口述試験が加わる区分ですが、依頼先選びでは資格区分より実績・報告書品質・料金で比較するのが実際的です。


出典(一次情報・2026年7月12日確認)

法令の確認日: 2026年7月12日(e-Gov現行条文・公式資料と照合) / 料金・各社情報の確認時点: 2026年7月(確認済みの会社のみ表示)