アスベスト(石綿)の事前調査をせずに解体・改修工事を始めた場合、リスクは二段構えでやってきます。

実務で深刻なのは二段目です。工期が止まれば、違約金や再手配のコストは罰金額をはるかに超えることが珍しくありません。

この記事では、「調査をしないと何の法律で・誰が・どう罰せられるのか」を、現行の条文(2026年7月12日時点)に沿って違反類型ごとに整理します。

本記事は e-Gov法令検索の現行条文・厚生労働省/環境省の公式資料に基づいて作成しています。今後、専門家への取材内容を追記予定です。個別の事案については管轄の労働基準監督署・自治体にご確認ください。

結論: 罰則は「1つの法律」ではなく複数の法律から別々にかかる

アスベスト事前調査に関わる義務は、大気汚染防止法(環境・近隣を守る法律)と労働安全衛生法・石綿障害予防規則(働く人を守る法律)の2系統で定められており、廃棄物の処理には廃棄物処理法が加わります。同じ「調査をしなかった」という行為でも、複数の法律の違反が同時に成立し得ます。

よくある誤解を先に正しておくと、大気汚染防止法には「事前調査をしなかったこと」自体への罰則はありません(罰則があるのは調査結果の「報告」を怠った場合です)。一方、労働安全衛生法の系統では、事前調査の未実施そのものが罰則の対象になります(安衛法22条違反として119条を適用。実際の書類送検もこの構成です)。「どの法律の、どの義務に違反したか」を分けて考えることが出発点になります。

罰則一覧(違反類型ごと・条文単位)

2026年7月12日時点の現行条文による一覧です。刑法改正(拘禁刑への一本化)後の条文表記に合わせ、「拘禁刑」と表記しています。

違反行為 義務の根拠 罰則条文 法定刑
事前調査の未実施(労働者保護) 石綿則3条(安衛法22条) 安衛法119条1号 6月以下の拘禁刑 又は 50万円以下の罰金
調査結果を労働基準監督署に報告せず・虚偽報告 石綿則4条の2(安衛法100条1項) 安衛法120条5号 50万円以下の罰金
調査結果を都道府県知事に報告せず・虚偽報告 大気汚染防止法18条の15第6項 大防法35条4号 30万円以下の罰金
作業実施届出をせず・虚偽届出(届出義務者は発注者又は自主施工者) 大防法18条の17第1項 大防法34条1号 3月以下の拘禁刑 又は 30万円以下の罰金
吹付け石綿等の除去等の方法違反(直罰) 大防法18条の19 大防法34条3号 3月以下の拘禁刑 又は 30万円以下の罰金
計画変更命令・作業基準適合命令等への違反 大防法18条の18・18条の21 大防法33条の2第1項2号 6月以下の拘禁刑 又は 50万円以下の罰金
石綿含有廃棄物の不法投棄 廃棄物処理法16条 廃掃法25条1項14号 5年以下の拘禁刑 若しくは 1,000万円以下の罰金(併科あり・未遂も処罰)
処理委託の基準違反 廃掃法12条6項 等 廃掃法26条1号 3年以下の拘禁刑 若しくは 300万円以下の罰金(併科あり)
無許可業者への処理委託 廃掃法12条5項 等 廃掃法25条1項6号 5年以下の拘禁刑 若しくは 1,000万円以下の罰金(併科あり)

3法とも両罰規定があり、違反行為をした担当者個人だけでなく、法人にも罰金刑が科されます(大防法36条・安衛法122条・廃掃法32条)。特に不法投棄は、法人に対して3億円以下の罰金という別枠の重い法定刑が定められています(廃掃法32条1項1号)。

なお、命令違反(大防法33条の2)について「過失の場合は減軽される」と書いている解説が見られますが、現行条文の過失犯規定(33条の2第2項)が対象とするのは「前項第一号」= ばい煙の排出基準違反のみです。石綿関係の命令違反(第1項第2号)には過失減軽の規定はありません。

なお、2023年10月以降、建築物の事前調査は建築物石綿含有建材調査者などの有資格者に行わせることが義務です(石綿則3条4項)。無資格者による調査は「適法な事前調査を実施していない」と評価されるリスクがあります。資格の確認方法は事前調査は誰がやる?必要資格と業者の選び方をご覧ください。

誰が罰せられるのか

検索でも多い疑問ですが、答えは「義務ごとに違う」です。

施工業者(元請・事業者)— 罰則の中心

発注者(施主)— 原則として罰則の対象外。ただし例外が1つ

下請

罰金より痛い「工事停止」の実害

都道府県知事は、作業基準が守られていない場合などに作業基準適合命令や作業の一時停止命令(大防法18条の21)、届出内容に問題があれば計画変更命令(18条の18)を出せます。命令に違反すると上の表のとおり刑事罰の対象になるため、命令が出た時点で工事を止めるほかなくなります。

止まった工事の損害は、罰金の額とは桁が違います。

「30万円の罰金で済むなら」という計算は成り立ちません。命令・送検に至った時点で、失うものは罰金額ではなく工期と信用です。

実際に書類送検された事例

いずれも「災害(健康被害)が起きたから」ではなく、調査をしていなかったこと自体が送検理由です。

「もう着工してしまった」場合のリカバリー

未調査のまま着工したことに気づいた場合、取るべき手順はシンプルです。

  1. 建材に手を付ける作業を直ちに止める(手を付ける前であれば、事前調査を経てから再開すれば足ります)
  2. 有資格者による事前調査を入れる。工期が迫っている場合は特急対応のある調査会社・分析機関を使う(費用相場はこちら)
  3. 報告対象の工事(解体80㎡以上・改修等100万円以上)であれば、調査結果の報告を行う(報告の実務)
  4. すでに石綿含有建材を破損した可能性がある場合は、自己判断で作業を続けず、管轄の労働基準監督署・自治体に相談する

自主的な是正がその後の処分にどう影響するかは事案によるため、この記事では断定しません。確実に言えるのは、発覚を恐れて作業を続けるほど、上の表の違反が積み重なっていくことです。

罰則回避の起点は「着工前の調査」

起点は、着工前に有資格者による事前調査を入れることです。そのうえで、調査後の義務 — 結果の報告・発注者への説明・現場掲示・記録の3年保存 — までを一続きで果たせば、上の表のどの罰則にも触れません。

費用面でも、確認済みの公開料金では調査の基本料金は55,000円〜(税別・検体数別途、2026年7月時点)などで、上の表のどの罰則・工事停止リスクよりも安く済みます。費用の内訳は事前調査の費用相場、依頼先の比較は調査会社の比較をご覧ください。

よくある質問

Q. 調査はしたが、報告だけ忘れていた。罰則はある? あります。労基署への報告(石綿則4条の2)を怠ると50万円以下の罰金(安衛法120条5号)、都道府県知事への報告(大防法18条の15第6項)を怠ると30万円以下の罰金(大防法35条4号)の対象です。気づいた時点で速やかに管轄窓口に相談してください。報告対象かどうかの確認は報告義務チェッカーで確認できます。

Q. 義務化される前の工事も、さかのぼって罰せられる? それぞれの義務は施行日以降の工事に適用されます(調査義務の強化は2021年4月、報告義務は2022年4月、建築物の資格者要件は2023年10月、工作物の資格者要件は2026年1月〜)。着工日がどの制度の適用対象になるかの判断は、管轄の労働基準監督署・自治体にご確認ください。

Q. 罰則の対象になるのは会社?担当者個人? 両方です。3法とも両罰規定があり、違反行為をした個人(現場責任者・代表者など)が処罰されるほか、法人にも罰金刑が科されます。


出典(一次情報・2026年7月12日確認)

※罰則の法定刑は、刑法改正(拘禁刑への一本化)後の現行条文の表記に合わせて「拘禁刑」と記載しています。行政パンフレット等には改正前の「懲役」表記が残っている場合があります。

法令の確認日: 2026年7月12日(e-Gov現行条文・公式資料と照合) / 料金・各社情報の確認時点: 2026年7月(確認済みの会社のみ表示)